TPPが日本に与える影響(3)
TPPが日本に与える影響(1)>>TPPが日本に与える影響(2)>>本記事
医療
現在の日本の医療は、多くが、患者の自己負担が3割以下で済む「保険診療」です。
それに対して、保険が適用されず、患者が全額を負担しなければならないものが「自由診療」です。
この2つを合わせたものが「混合診療」と呼ばれるものですが、現在の日本では、患者に保険外の負担を求められることが多くなり、患者の負担が増大してしまうことや、安全性などの科学的根拠のない医療が保険診療と合わせて行われてしまう可能性があるため、原則として禁止されています。
しかし、日本がTPPを締結することによって、この混合診療が解禁され、さらには国民皆保険制度がなくなってしまうという懸念があるのです。
なぜそういう懸念が出てきてしまうのか、今から説明していきたいと思います。
先程も書いた通り、日本はほとんどが「保険診療」のため、本当に必要でなければ、高額な「自由診療」は受けない人がほとんどだと思います。
しかしこれは、日本に最先端の医療を売り込みたい外国の製薬会社などにとって、障壁になるのです。
それは、売れないからです。
また、「国民皆保険制度」も、日本に保険を売り込みたい外国の保険会社などにとっては障壁になります。
理由は同じく売れないからです。
そのうち、外国のそういった会社が、日本を「国際投資紛争解決センター(ICSID)」に訴えるかもしれません。
このように、ある国が自国の利益や産業を守るために行う制度や法律により、海外の企業や投資家が損をした場合、ICSIDにその国を訴えることができる、という制度を、ISD(またはISDS)条項と言います。
TPPにこれが盛り込まれる可能性があるため、こういった懸念が出てくるのです。
(このISD条項については、後の記事で説明することになるかもしれません)
前述のように、海外企業などが日本政府を訴え、もし日本政府が負ければ、賠償金を支払うか、制度そのものを変えなければなりません。
それによって、例えば混合診療が解禁されるとどうなるでしょう。
私の参照しているサイトには、要約すると、「患者の選択の範囲が広がるようにも見えますが、膨らんだ保険の費用を抑えるため、保険に適用範囲を狭くするということにもなりかねない」とまで書かれています。
さすがにここまでにはならないと思いますが、いずれにせよ、保険外診療が増え、医療費や薬の値段が高騰するのではないか、という懸念があります。
ここまで読んで下さっている皆さんは、もう不安でしかないかもしれません(笑)
そこで、これから、これらの懸念に対する反論意見を書いていきたいと思います。
まず、これらの懸念に対して政府は何と言っているか。
医療制度に関しては、
政府が現時点で得ている情報では、TPP交渉においては、公的医療保険制度のあり方そのものなどは議論の対象になっていません。また、これまで日本が締結してきた経済連携協定においても、公的医療保険制度については、金融サービスの自由化について定める規定等から除外しています。
政府としては、日本が誇る国民皆保険制度を維持し、安全・安心な医療が損なわれることのないよう、しっかりと主張していきます。国民皆保険制度は、日本の医療制度の根幹であり、この制度を揺るがすことはありません。
※米国の政府関係者からは、TPPは、①日本や他の国に自国の医療保険制度の民営化を強いるものではない、②いわゆる「混合診療」を含め民間の医療サービス提供者を認めることを要求するものではない、という旨の発言がこれまでもなされています。
としています。(内閣官房より引用。URLはこの記事の最後の方。)
公的医療保険制度とは、医療を受ける時に、公的機関などが医療費の一部を負担してくれる制度のこと。
国民は全員が「公的医療保険」に加入することになっており、それを国民皆保険制度と呼んでいるわけです。
つまり、政府としては、そもそも「国民皆保険制度」も「混合診療」も議論の対象になってはいないから大丈夫だ、ということです。
さらにISD条項に関しては、
これまで、日本は、合計で25の投資協定や経済連携協定(EPA)を結んでいますが、そのうち24の協定でISDS条項を設けています。これは、海外で活躍している日系企業が、進出先国の協定に反する規制やその運用により損害を被った際に、その投資を保護するために有効な手段の一つになるものと考えているからです。
日本が結んでいる協定では、争いの解決法として、相手国の制度を変更させるのではなく、投資家が被った損害の賠償や原状回復という形がとられています。
ICSIDが世界銀行の傘下であることから、米国に有利な判断が下されるのではないかとの懸念も聞かれますが、そもそも、ICSIDは、仲裁のための行程管理など事務的なものを行い、仲裁の判断は行わないため、そのような指摘は当たりません。また、通常、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)やストックホルム商業会議所仲裁協会(SCC)、国際商業会議所(ICC)など、ICSID以外の仲裁規則・機関を選ぶこともできます。
また、投資家に具体的な損害が生じていない場合は訴えることができません。投資家に具体的な損害が生じた場合も、賠償などが命じられるのは、正当化されない外資規制など投資に関する義務違反が行われた場合などに制限されます。
なお、交渉の中で、特定の措置について自由化の対象外とすることも可能です。これまでの日本が結んでいる協定では、公的医療保険制度は投資分野の義務から除外されており、ISDS条項の対象とはなっていません。
としています。(内閣官房より引用。URLはこの記事の最後の方。)
長々と引用してしまいましたが、要するに、今まで日本が他国と結んできた協定にはISD条項が入っているものもあるが、「公的医療保険制度」はその対象から除外している(だからTPPでも除外する)、ということです。
また、これらの懸念が出る根幹には、TPPでは、関税だけでなく「非関税障壁」の一部も撤廃される可能性がある、というものがあります。
非関税障壁とは、
関税以外の方法によって貿易を制限すること。または、その制限の解除要件のことである。非関税措置と呼ぶこともある。
具体的には、輸入に対して数量制限・課徴金を課す、輸入時に煩雑な手続きや検査を要求する事。または国内生産に対して助成金などの保護を与える事などによって行われる。
また拡大解釈的には、輸出入に不平等な結果をもたらす、国特有の社会制度や経済構造を含む場合がある。
というものです。(Wikipediaより引用。URLはこの記事の最後の方。)
つまり、「混合診療」や「国民皆保険制度」が「非関税障壁」とみなされれば、他国の会社などから訴えられるかもしれない。が、みなされなければ訴えられない。
しかし、政府の立場で言えば、そもそも議論の対象から外れているから、みなされる・みなされないの問題ではない といった感じでしょうか。
それとも、確実にみなされないから、議論の対象にはならないのでしょうか。
さらに言えば、他国にも日本の「国民皆保険制度」のような制度がある国もあり、もし日本を訴えれば、その国の制度を否定することにもなりかねません。
だから訴えられることはないと。
ここまで以上、反論意見でした。
B.ジェネリック医薬品への影響が出る可能性について
まず、ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、Wikipediaによると、
ということです。
これは、既に存在しているものを使用するため、費用が抑えられ、値段が安いのが特徴です。
しかし、医薬品の知的財産権の強化により、このジェネリック医薬品の開発や発売に影響が出るのではないか、という懸念があります。
この懸念に対し、政府は、
医薬品の知的財産権の強化により、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の発売が遅れるのではないかとの懸念も聞かれます。TPP交渉では、医薬品のデータ保護期間(※)についても議論されているようですが、例えば、既に締結されている米韓FTAでは、保護期間は少なくとも5年とされています。これに対し、我が国では、これより長く実質8年間の保護期間を設けています。
※新薬の承認後、一定期間、新薬を開発した企業の提出したデータを後発医薬品の承認のために使用しない(ジェネリック医薬品が承認されない)こと。
としています。
「ある協定で結ばれている保護期間よりも長く設定しているのが現状だから、あまり心配は要らない」ということですね。
次回は農業についてみていきます。
>>TPPが日本に与える影響(4)へ続く
<参照>
・http://www.think-tpp.jp/nation/index.html(リンク先の1個左も)(TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク)
・http://www.toha-search.com/keizai/tpp.htm(とはサーチ)
・http://luna-organic.org/tpp/tpp-3-1.html(サルでもわかるTPP)
・http://www.cas.go.jp/jp/tpp/q&a.html#3(内閣官房)
・http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html(厚生労働省)
・http://www.bms.co.jp/kogakuryoyo/knowledge05.html(高額療養費パーフェクトマスター)
・http://www.hokepon.com/learning/connect/public_option.html(保険見直し本舗)
・http://kongoshinryo.jpn.org/static/tpp.html(患者本位の混合診療を考える会(仮))
・http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%9E%E9%96%A2%E7%A8%8E%E9%9A%9C%E5%A3%81(Wikipedia)
・http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=63249(jin-Jour)
・http://matome.naver.jp/odai/2141917748231088101(NAVERまとめ)
・http://www.medical-world-guide.com/site_theme/(世界の健康保険)
・http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E7%99%BA%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81(Wikipedia)
・http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/(厚生労働省)
・http://www.1ginzaclinic.com/drugs/mininka/prescription.html
<執筆後記>
やはり1ヶ月かかってしまいました。。。
1ヶ月にいくつも連発できるような内容ではありませんでしたね・・・
本当に申し訳ありません。